
■身に覚えのない会社から100万円の請求書が送られてきました~相続放棄という選択肢~

身に覚えのない会社から100万円の請求書が届きました。この請求書により、兄が1カ月ほど前に亡くなったことを知りました。その会社は兄の相続人である弟の私に請求するとのこと。最初詐欺ではないかと思いましたが、どうやらそうではなさそうです。私はこの支払いをしなければならないのでしょうか。ちなみに兄弟は兄と私の2人で、両親は数年前に他界しています。兄は、高校を卒業後、実家を離れ、その後40年以上、両親や私と音信不通でした。

突然身に覚えのない高額の請求書が届き、さぞ驚いたことでしょう。確かに詐欺を疑ってみる警戒心は必要だと思いますが、今回はそうではなさそうですね。
音信不通だった兄弟姉妹などが亡くなり、相続人のもとへ、ある日突然請求書が送られてくるという事案は決して珍しくありません。人が亡くなると、プラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も相続人に引き継がれます。今回のケースのように、亡くなったお兄さん(債務者)にお金を貸していた会社(債権者)は、相続人であるあなたへお兄さんの代わりに借金を返済するよう請求することができます。今回の請求書は驚かれたでしょうが、兄弟同士が音信不通であっても、債権者であれば債務者の相続人を戸籍謄本などを取得して調べることができるのです。
あなたが取るべき方法は大きく二つあると思います。
一つ目は、相続放棄の手続きを家庭裁判所に対して行う方法です。相続放棄とは、相続人が亡くなった方の権利や義務を一切受け継がないということです。相続放棄が認められれば、あなたは相続人ではなくなるので、お兄さんの借金を支払う義務がなくなります。ただ、お兄さんがプラスの財産(預貯金、不動産など)を持っていたとしても、それらを引き継ぐこともできませんので注意してください。
二つ目は、相続するかをすぐに決められないので猶予期間をくださいと家庭裁判所へ申し立てる方法です。自分が相続人であることを「知ったとき」から3カ月が経過すると、権利も義務も相続したことになり(単純承認)、原則としてそれ以降は相続放棄をすることができません。今回のケースは、「知ったとき」とは、債権者からの通知を受け取った日を指しますので、その日から3カ月以内であれば、猶予を求める手続きを裁判所へ申し立てることも可能です。通常3カ月程度の猶予期間が認められますので、その間に、他に財産がないか調査し、借金などの債務が多ければ相続放棄の手続きを行い、そうでなければ単純承認をすることになるでしょう。
今回のような事例において、司法書士は、家庭裁判所へ提出する相続放棄や猶予期間を求める書類の作成を行うことでお力になることができます。
詳しくは、お近くの「暮らしの身近な法律家」の司法書士、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)にお尋ねください。
(司法書士 押井崇)
埼玉新聞 令和7年8月7日から転載