■経営者のための相続・遺言(Vol.8)~スムーズに会社を清算するために遺言書をのこしましょう~
今回は、社長と株主が同一人のいわゆる「一人会社」を経営されている方に向けてのお話です。熱い思いで起業した会社であっても、後継者がなく、一代限りとなる可能性が高いという状況の方も少なくないでしょう。社長であるあなたに万が一のことが生じた場合、会社はどのような手続が必要となるのでしょうか。前向きな話題ではありませんが、このような事態を想定しておくことも経営者にとって大切なことだと思います。
非上場の株式会社の社長、かつ、株式のすべてを保有している株主が亡くなり、その株式を承継した方(新たな株主)が会社をたたむ手続に移行した場合の過程を説明します。
新たな株主は、株主総会を開催し、会社の解散を決議し、清算人を選任します。通常は新たな株主が清算人に就任します。清算人は、顧問税理士と相談しながら、会社の未収金を回収し、未払金を支払います。会社名義の不動産、自動車、設備機器などがあれば、売却などにより換金します。会社の資産に関する清算がすべて終了した時点で、「清算結了」という登記手続や税務署などへの届出を行い、名実ともに会社は「閉鎖」されます。この間、会社の規模、清算内容によって異なりますが、少なくとも半年以上の期間を要することが多いです。
そして、遺言書がある場合とない場合では、この清算手続の進捗に差異が生じることがあります。
遺言書がない場合は、相続人の間で株式を承継する方(新たな株主)を話し合いによって決めなければなりません(遺産分割協議)。しかし、相続人の中に音信不通の方がいる、未成年の子がいる、判断能力に支障がある方がいる、といった事情がある場合、そのままでは遺産分割協議を行うことができません。裁判所に申立てを行い、不在者財産管理人、特別代理人、成年後見人などを選任してもらう必要が生じるため、遺産分割協議がまとまるまで相当の期間を要します。また、相続人間の仲が悪く、遺産分割協議をまとめることができないというケースもあるでしょう。新たな株主が決まらないと、清算手続を開始できませんので、それだけ会社をたたむまでに時間を要することになります。社屋を賃借していれば賃借料がかかりますし、従業員がいれば給料も発生します。また、会社の実状を把握している従業員に清算手続の協力を仰ぐ必要がある場合は、清算手続が長引けば、従業員の次の就職先が決まらず、負担をかけることになります。
このような事態を避けるには、なるべく早期に清算手続を開始する必要があるので、遺言書を作成しておくことをお勧めします。後継者がいない場合でも、お子様など信頼できる方に株式を承継させる内容にすれば、遺産分割協議を経ずに、指定された方が新たな株主として会社の清算手続に着手できます。そして、清算手続終了後、会社の資産がプラスであれば、株式を承継した方に原則として金銭が分配されます。
なお、清算手続終了後、会社の負債が多い場合は、株式を承継した方がその負債を引き継ぐことになりますので、株式を承継する前に、会社の資産状況を把握しておくことが不可欠です。
会社の清算手続に関する相談、遺言の作成に関する相談は、お近くの司法書士にお寄せください。なお、埼玉司法書士会では、越谷総合相談センター(詳しくは埼玉司法書士会のホームページをご覧ください)でも相談を受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
(司法書士 押井崇)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和7年11月1日から転載





