埼玉司法書士会

司法書士は、くらしに役立つ法律家です。

■経営者のための相続・遺言(Vol.7)~株式の分散リスクとその対応について~

 株式会社においては、会社に対して出資した者に「株式」が付与され、その者は「株主」となります。株主には様々な権利が付与されますが、中でも重要なものの1つに「株主総会での議決権」があります。

 議決権は、会社の経営の重要事項について決定していく権利です。中小企業における経営の安定という点からは、経営者や後継者になるべく集中させることが望ましいと言えます。そのためには、株式を経営者のあずかり知らない第三者に分散させないことも必要になってきます。

 誰が現在の株主かわからない状態になっている、あるいは株主が所在不明になっているのであれば、まず株主が誰かを調査しておく必要があります。

 また、会社経営者に相続が発生し、相続人は配偶者・長男・長女で、会社の後継者と予定されているのが長男であった場合、会社の株式を全て長男が保有する形にできれば、長男は経営方針を決めやすくなりますが、相続開始前から配偶者が多数の株式を有していた場合や、株式の相続についての話し合い(遺産分割協議)がうまくいかず相続人全員で共有となった場合には、安定した経営が難しくなる可能性があります。

 何らかの理由で株式が分散してしまった場合には、状況にもよりますが、分散を解消する対応をする必要があります。

 例えば、以下のような方法があります。

①経営者(又は後継者)が分散先から買い取る方法

 株主と交渉して株式を買い取ります。中小企業では株式の譲渡に制限を付している会社が多く、その場合には原則として会社内で承認の手続が必要となります。

②会社自体が分散先から買い取る方法

 この場合、買い取った株式は会社自身が保有する「自己株式」となり、議決権を行使できない株式となります。

③相続人等に対する会社への売渡請求の定めの設定

 株主に相続が発生した場合、株式に譲渡制限が付されていたとしても、相続人への株式の移転には、会社の「承認」は必要ではなく、相続人に当然「承継」されることとなります。そのため株式が分散してしまうことになりかねません。このような場合に備えて、定款で会社から相続人に対する「売渡請求権」を定めておくことができます。相続人は会社から売渡請求をされた場合、金額の交渉をすることはできますが、売渡自体は拒否できません。

④種類株式の活用

 普通株式以外に、無議決権株式(例えば、会社経営に関わる予定のない相続人には、配当は受けられるが議決権のない株式を相続させる)、取得条項付株式(例えば、「株主が死亡した時は会社が当該株式を買い取ることができる」と定めておく)といった特殊な株式(種類株式)を定款で定めることにより発行する方法があります。

 ただし、種類株式を発行すると種類株主総会の開催が必要になったり、どのような種類株式をどの程度発行するか等、会社の状況に応じて慎重な判断が必要となります。

 株式の分散を防ぐためには様々な方法がありますので、検討にあたってはお近くの司法書士等の専門家にご相談することをお勧めいたします。

(司法書士 千代間道子)

※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和7年9月1日から転載

 

各種相談窓口
Copyright(C) 埼玉司法書士会 All Rights Reserved