
■経営者のための相続・遺言(Vol.6)~事業承継における遺言書について~
ご自身が経営している会社を特定の相続人の方に継がせたいと考えておられる方もいらっしゃると思います。スムーズに事業承継をするために遺言書を作成することは非常に有効な手段です。本稿では、事業承継における遺言書の必要性や遺言書を作成する際に考えておきたいことなどをご紹介したいと思います。
相続が開始すると、所有していた不動産や預貯金などの財産につき、相続人の間で遺産分割協議をし、財産を承継させる手続きが必要となります。一方、遺言書がある場合は遺産分割協議の必要は無く、生前に財産の承継先を指定しておくことができます。
これは自社の株式も同様で、遺言書があれば生前に株式を取得する人を指定することができますが、遺言書がない場合、相続人全員での遺産分割協議が必要となります。遺産分割の話し合いがまとまらなければ、スムーズな事業承継は難しくなってしまうでしょう。
遺言書を作成することになりましたら、自社の株式とあわせて不動産や預貯金の承継先及び遺言執行者(亡くなった際に遺言内容を実現するために手続きを進める人)などを決めておきます。その際に注意しておきたい点を二つほど以下に記載します。
1.遺留分について
遺留分とは相続人が最低限の金銭を請求できる法律で定められた権利です。
例えば、長男、二男、三男の三人兄弟のうち、遺言で長男に全ての財産を取得させたとします。そうすると、二男と三男は何ももらえなくなってしまいますので、長男に対して、遺留分を侵害している額を金銭で請求する権利が二男と三男に認められます。遺言書を作成する際は、遺留分についても考慮した上で財産の承継先を決めておくと、スムーズに手続きを進めることができると思います。
2.相続税について
亡くなった方に一定額以上の財産がある場合、相続税の申告が必要になります。自社の株式についても相続財産として計算する必要があり、評価する方法はいくつかあります。また、事業を承継させたい人に自社の株式と不動産を相続させ、他の相続人に預貯金を相続させるような場合、事業を承継した人が金銭を相続できなかったため、相続税を支払えなくなり、自社の株式や不動産を手放さなくてはならないようなケースも考えられます。
他にもケースによっては様々な注意点があると思いますが、事業承継に備えた遺言書の作成にあたり、あらかじめ考えておきたいことをご紹介しました。
遺言書には財産の承継先だけではなく、付言事項と呼ばれるメッセージを残すこともできます。どのような思いで事業を承継させたいのか、ご自身の思いを残すことで、財産の分け方が少し不平等になったときも相続人の方は納得することができるかもしれません。
なるべくスムーズに事業承継をするために、遺言の作成を検討される際はお近くの司法書士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。
(司法書士 富田竜太)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和7年7月1日から転載