■賃貸借ー賃貸不動産のオーナーチェンジの新ルールーvol.5
「賃貸借」とは、①賃貸人が、目的物を賃借人に使用収益させること、②賃借人が賃料を払うこと、③契約終了時には目的物を返還すること――の3つを約束をすることで成立します。賃貸借については、今回の法改正によって、過去に裁判所が示した法律的な判断のうち重要なものが法律上、明確に規定されたほか、新たな仕組みがいくつか設けられました。
ここでは、それらの改正の中から、賃貸不動産の譲渡(オーナーチェンジ)がされた場合の貸主の地位についてとりあげます。
① 賃貸建物のオーナーが代わったら
例をあげて説明しましょう。
Aが所有する建物をBに賃貸し、使用させているとします。Aは、その建物の所有権をCに売却しました。この場合、建物の所有権とともに、貸主の地位もAからCに移ります。AとCとの間でどちらが貸主となるかといった話合いがなく、また、借主であるBの承諾がなくても、貸主はCに代わり、敷金や保証金などもCに引き継がれることになります。
② 不動産所有者としての利益だけを得たいが…
では、Cが、建物の所有権だけを手に入れて、貸主の地位だけAのままにしておきたいと思った場合はどうでしょうか。
これまでは、AとCが合意しただけでは、貸主の地位を前所有者であるAに留めておくことは認められていませんでした。新旧所有者CAの間での合意のみで貸主をAのままにすることができるとすると、賃借人Bの立場は、C所有の建物を借りているAから又貸しをされているのと同じことになってしまう、というのがその理由です。又貸しの結果、仮にCが、Aから賃料を支払ってもらえないなどの理由によりAC間での賃貸借契約を解除し、Bに建物を明け渡せと要求した場合、Bはこれに応じなくてはなりません。Bにとっては、自分が直接かかわっていない事情によって不安定な立場にされてしまうというわけです。ですので、CA間の合意だけでなくBの承諾をも取り付ける必要がありました。
③ 新旧所有者間の合意で貸主そのままに
これでは、不動産運用から得られる収入はほしいが、建物の修繕や敷金返還などの義務は負いたくない、管理は不動産のプロに任せたいという投資家にとっては、物件の購入をためらう理由にもなり、不動産取引において、支障をきたすことになりかねません。
そこで改正民法は、その不動産をCがAに賃貸し、貸主の地位をAに留保する旨をAとCの間で合意すれば、貸主の地位をCに移さずに済むと新たに規定しました。
また、又貸しされるBの立場が不安定になってしまうという問題については、AC間の賃貸借契約が終了した場合は、貸主の地位はCに移ると規定し、引き続きBの地位を保護することにしました。
④ 貸主を第三者にした場合も同じ?
では、このほか、Aから建物の所有権を取得するとともに貸主の地位をも継いだCが、建物の所有権を自分のものにしたまま貸主の地位だけを旧所有者以外のDに移した場合はどうなるでしょうか。
その地位をAに留めておくか、Dに移すかの違いだけで、前記と同じ結論になるように思えますが、この場合、貸主の地位は当然には変わりません。賃借人Bの承諾がなければ、貸主はCのままです。
また別のケースとして、AC間の取引の目的の不動産が建物ではなく駐車場(土地)だと、貸主は誰になるのでしょうか。答えは、Aのままです。AとCが、Cを貸主とするという合意(Bの承諾は不要です。)をしてはじめて、貸主が代わります。これは、通常、駐車場の賃貸借には、対抗力がないことによるものです。
いずれも最初のケースと少し異なりますので、注意が必要です。
(債権法改正対応委員 樋口泰)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和2年3月1日から転載