■経営者のための会社法務(Vol.17)~相続登記の申請義務化をきっかけに登記の意義を考えよう~
令和6年4月1日、相続登記の申請を義務化する法律が施行されました。相続人は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。正当な理由がないのに申請をしない場合は、過料が科される可能性があります。なお、令和6年4月1日より前に相続した不動産についても義務化の対象となりますので注意が必要です。
これまで任意だった相続登記がなぜ義務化されることになったのでしょうか。その理由の一つとして、長年にわたって相続登記がされないため、登記簿を見ても所有者が分からない不動産が全国各地で増加し、公共工事や災害復興工事に支障をきたす、管理が行き届かなくなり周辺の環境が悪化するなどの問題が生じていることが挙げられます。
さて、この機会に不動産に関する権利の登記の意義について考えてみましょう。例えば不動産を購入したとき、買主は、自らの住所氏名等を登記簿に記録するために登記申請をします。この申請は義務ではありませんが、「この土地(建物)の所有者は私です」という権利関係を明確にしたいので、ほとんどのケースで司法書士に依頼するなどして申請するでしょう。登記されることによって、所有者などの権利関係が明確となるので、争いが生じにくくなりますし、固定資産税などの納税義務者も一目瞭然です。
一方、相続で不動産を取得した場合はどうでしょうか。購入した場合に比べて、登記の申請をしないというケースも少なくありません。しかし、取得の経緯は違っても、権利関係を明確にする必要性があるのは同じです。今後は、相続で取得した不動産についても、たとえそれが農地や山林、両親が亡くなった後の実家(空き家)だとしても、登記の申請を行い、権利関係を明確しておくようにしましょう。特に農地、山林といった売却を予定していない土地については、相続登記の申請をおろそかにしがちです。何代にもわたって登記がされていなかったため、いざ登記申請をしようとすると、相続人が数十人に達し、手続きが難航することもあります。なお、登記の申請に際しては、事実と異なった登記がされないように厳格なルールが定められています。
また、相続発生後の相続人間の争いを防ぐために、不動産の名義人が遺言書を作成しておくこともご検討ください。遺言書は形式に違背すると無効になってしまうので、公証人が作成する公正証書にする方法が安全ですが、令和2年より、自筆で作成した遺言書を法務局に保管するという選択肢も加わりました。遺言書の内容が重要なのは言うまでもありませんが、作成方法や保管方法の選択も重要です。
相続登記の申請に関する相談、または遺言の作成に関する相談は、お近くの司法書士にお寄せください。なお、埼玉司法書士会では、越谷総合相談センター(詳しくは埼玉司法書士会のホームページをご覧ください)でも相談を受け付けておりますので、お気軽にお問合せください。
(司法書士 押井崇)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和6年5月1日から転載