■経営者のための会社法務(Vol.15)~株式の管理関係の書類を整えていますか~
「株式の管理関係の書類」とは、株主の確定と管理に必要な帳簿のことです。中小企業の大多数を占める同族会社では、株主と言っても家族か知人で、普段は管理の必要すら感じておられないでしょうが、それが大問題を引き起こすことがあります。その代表が相続です。
事業主が死亡すると、株式の相続が発生しますが、誰が何株保有しているかが問題になることがあります。例えば、事業主の生前に、贈与などにより事業承継者に株式を移転していることがありますが、これに必要な書類を整えていないと、相続人間で争いになったり、税務署に否認されたりすることがあるのです。
まず株主名簿。これは株主管理のための元帳です。株主名簿の記載事項は法令で決められていますので、これに準拠していればよいのですが、意外な記載事項として、「株主が株式を取得した日」というのがあります。これは、例えば事業年度末後に新株を発行した場合には、その期に関する定時総会ではその株式に議決権は認められないものと定款で定めているので、それを判別するための要件です。
次に印鑑簿。これは、法令上の必要帳簿ではありませんが、多くの定款で、株主は会社に印鑑を届出なければならず、株主として権利行使する場合、例えば、株式名簿の記載事項の変更請求や株式譲渡承認請求等には、会社に届出た印鑑を押印した書面でするものと定められており、これがないと、株式の譲渡などを行った旨の株主名簿の変更が行われていても、その裏付けがないとして、否認される可能性があるのです。
株式そのものに関する書類では、株券と株券不所持申出書があります。会社法施行(平成18年5月1日)以前からある会社は原則としてすべて株券発行会社ですが、現実には株券を発行していないことがほとんどです。しかし、当時の株券発行会社で株券を発行していないのは違法状態で、最大百万円の過料の対象になります。それはともかくとしても、当時、株式の譲渡には株券を必要としていましたので、これが一度も発行されていない(株券を発行した場合、株主名簿に「株券の番号」を記載しておく必要があります)というのでは、株式の譲渡を否認される可能性があるのです。ただし、株券不所持申出書を各株主から出してもらっておけば、その後、株券を発行していなくても違法にはなりません。この、株券不所持申出書も、株主の届出印で出してもらう必要があります。
株式の譲渡に取締役会等の承認を必要としている会社の場合、譲渡(売買や贈与など、法律行為による権利移転のこと。相続は含みません)による名義書換には、必ずその承認機関が承認した旨の記録(取締役会議事録等)も作成・保存しておかなければなりません。
他にも、株主名簿記載事項変更請求書、株式譲渡承認請求書、株主名簿記載事項証明書等の書式を整備しておく必要があります。
これらの書類は、普段、会社が何も問題なく稼働している限りは特に問題になることもありませんが、相続や会社の主導権争いが起きたような場合には、その根拠となる書類ですので、何も問題が起きていないときに整備しておくべきです。具体的な内容については司法書士にご相談いただきたいと思います。
(司法書士 鈴木一也)
※越谷商工会議所会報「鼓動」令和6年1月1日掲載