■相続法の改正(1)-自筆証書遺言の保管制度ーVol.1
昨年から今年にかけて、相続に関する法制度が改正されました。その柱の一つに遺言制度の充実があり、その一環として今年7月10日から法務局で自筆の遺言書を保管する制度が始まります。
今回の相続法改正において遺言制度の充実が図られたのは、これから①事実婚、同性婚等、家族の在り方が多様化すると予想されること、②離婚件数の増加から、被相続人に再婚歴がある場合、前婚の子と後婚の子との間で話し合いがつかないケースが増えると予想されること、③生涯未婚者の数が増加傾向にあるため、兄弟姉妹間相続が増えると予想されること等、相続の際、遺産分割の方法では解決が困難になると予想される家族形態の財産承継への対応力を上げるためです。このような場合、遺言を遺しておくことが問題解決に非常に有効なのです。
遺言は、従来から、公証人に書いてもらうもの(公正証書遺言)と自分で書くもの(自筆証書遺言)の2種類がありましたが、前者は費用の問題、後者は特定の相続人等による遺言書の隠匿や偽変造の危険があるほか、遺言者が遺言書の存在を明らかにしないまま亡くなった場合には遺言者の意思と異なる遺産処分が行われる可能性がありました。今回の遺言書保管制度は後者の欠点の克服を目指したものです。
遺言書保管制度は、自筆証書遺言書を法務局の職員が遺言者の本人確認をしたうえで直接預かるものであるため、従来問題とされてきた欠点を克服できるものと期待されています。この手続によって保管された自筆証書遺言書は、以後、遺言者本人から保管撤回の申出がされない限り原本が返却されることがなく、原状保全がなされるため、従来必要とされてきた裁判所の「検認」という措置が不要とされました。しかし、相続人等が遺言内容の実現のため、遺言書の原本に代わる証明書(遺言書情報証明書)の交付を請求する際、検認申立の際に求められるものと同等以上の書類を法務局に提出する必要があるため、検認不要とされたことは、あまり特筆できるような利点ではありません。この制度の本当の利点は、通常の自筆証書遺言であれば1通しかない遺言書原本に代わる遺言書情報証明書を、相続人や受遺者等が取得できるものとされたため、①従来あった、遺言書の原本を保有する者による遺言書の隠匿、偽変造や遺言書原本の引渡の拒否によって執行不能になるなどのトラブルを回避できることと、②遺言者が保管請求の時に指定しておけば、遺言者の死亡届が出された時に、法務局から直接その者に、故人の遺言書が保管されている旨が通知されることです。これによって、遺言者による遺言書の所在の秘匿と、遺言執行の着手の迅速化の両立が期待できるようになりました。
この制度は、従来からの保管制度を利用しない自筆証書遺言や公正証書遺言と並立して運用され、それぞれに利点と欠点がありますので、どんな人が、どの制度を利用するのが適切か、司法書士等の専門家にご相談されたうえで利用されることをお勧めします。
(司法書士 鈴木一也)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和2年7月1日から転載