■アパート退去後の請求額、これ妥当な金額?
賃貸アパートを退去後に賃貸人から修繕費用を請求されました。これが不当な請求なのか全く分からず、専門家に相談すべきか迷っています。
退去後の修繕費用についてどのように考えるかですが、まず修繕の理由を次の通り分けて考えます。①通常の住まい方をして発生した経年劣化や損耗の回復②賃借人が意図的に、または不注意で発生させた損耗や通常とはいえない住まい方で発生させた損耗の回復③通常の住まい方をして発生した損耗であるが、その後の手入れなどが悪く、損耗が拡大または新たに発生した損耗の回復④賃貸人が次の賃借人のために設備を最新のものに取り替える修繕の四つです。
①は毎月の賃料に含まれていると考えますので、退去後、賃借人に請求するのは間違いであり、④は当然賃借人が負担すべきものではありません。よって、①と④が請求されているのであれば不当な請求です。②と③が賃借人の負担する可能性のある修繕費用となります。
次に修繕が必要な設備の耐用年数を考慮します。例えば壁紙であれば耐用年数を6年とし、②や③により賃借人が負担する修繕費用がどのくらいか考えます。入居時に新品の壁紙だったとすると、6年以上入居し、その間に交換がされていないのであれば、退去時に賃借人が負担する壁紙に係る修繕費はないと判断されやすくなるでしょう。
②や③の賃借人が負担する修繕ですが、普段の生活に当てはめるとどのような場面が考えられるでしょうか。例えば壁紙に不注意で傷を付けてしまった場合、傷が付いた部分のみの張り替えでは他の部分と色味に違いが出ることから、賃貸人が全面の張替えをすることがあります。この場合は、賃借人の負担する修繕費は全面の張替えではなく、一部の張り替え費用が妥当とされています。
カビが発生した場合はどうでしょうか。カビが発生することは上記の①に該当し壁紙などの張替え費用を賃借人が負担する必要はなさそうですが、同じアパートの他の部屋に比べてカビが大量に発生していた場合などは、③に該当し張り替え費用の一部を賃借人が負担すべきと判断されるときもあります。
賃貸借契約書に、例えば「クロスは賃借人の負担で全面張り替える」などと上記と異なる特約が記載されていた場合でも、それが一方的に賃貸人に有利なものであれば、必ずしも有効とは限りません。詳しくは、お近くの司法書士事務所、または埼玉司法書士会(☎048・863・7861)へお尋ねください。
(司法書士 樋口隆)
埼玉新聞 令和4年1月6日から転載