■「経営者のための相続入門」自社株は相続時にどうなるの?-Vol.7
ある中小企業の株式全部を、創業者であるAさんが持っていたとします。
Aさんが亡くなったときに、Aさんが持っていた自社株はどうなるでしょうか?当然、株式は相続財産に含まれるので相続の対象になります。
ここでちょっと、株式の相続を考える前に他の相続財産がどうなるかを見てみましょう。
Aさんの相続人は配偶者Bさん、長男Cさん、長女Dさんとします。その場合の法定相続分はBさん4分の2、Cさん4分の1、Dさん4分の1です。Aさんの遺言はないことを前提とします。
預貯金ですが、これは遺産分割の対象となります。つまり、相続人全員が話し合いをし(これを遺産分割協議といいます。)、Aさんの預貯金を誰がいくら相続するかなどを相続人全員一致で決めないとなりません。そうしないと原則的には預貯金を引き出すことはできません(ただし、令和2年施行の相続法改正により預貯金の仮払い制度が創設されたことは本連載Vol.4を御参照ください。)。
次に、Aさんが第三者に対して1000万円を貸し付けていたとします(あくまでAさん個人の貸付金です。会社の貸付金はそもそも相続財産ではありません。)。この貸付金1000万円はAさんの死亡により、直ちに法定相続分で分割された金額で各相続人に承継されます。つまり、Bさん500万円、CさんとDさんは各250万円の貸付金を有することになります。預貯金とは逆で遺産分割の対象ではないので、原則、話し合って決める必要はありません。
さて、Aさんが持っていた自社株が1000株だとして、Aさんが亡くなるとその1000株はどうなるでしょうか?答えは、預貯金と同様、遺産分割の対象となり、貸付金のように当然に法定相続分で分割されることはありません。
これがどういうことかと言いますと、遺産分割協議をして、相続人全員一致で誰が何株相続するかを決めないと最終的に株主が誰なのかが確定しないわけです。遺産分割協議で決めない間は、全部の株式を相続人が法定相続分の割合で共有している状態になります。1株をBさん4分の2、Cさん4分の1、Dさん4分の1の割合で共有し、それが1000株ある、という状態です。そのような状態ですと、株主総会で議決権を行使する人を1名定めて会社に通知しなければなりません。遺産分割協議がスムーズにまとまれば株式を相続する人が確定するので議決権を行使する人を決める必要もありませんが、相続人同士の関係性が悪い場合などは、遺産分割協議はもとより、議決権行使する人を決めることもできず、そうすると毎年開かなければいけない定時株主総会での決算承認や役員変更等の決議もできなくなって、会社の運営に重大な支障をきたす恐れがあります。会社事業の承継者はあらかじめ決まっていることも多いと思われますので、このようなリスクを避けるためには遺言で株式を相続する人を決めておくのが有効です(遺言に関しては本連載Vol.1、Vol.3も御参照ください。)。特に、従来の遺留分が、ある意味、遺言の一部をひっくり返すような効果があったのに対し、令和2年施行の相続法改正により、遺留分が純然たる金銭請求権に変わったことで遺言の効力がより強固になったと言えるでしょう(遺留分の改正については本連載Vol.2を御参照ください。)。
具体的な相続、遺言の相談は是非、司法書士等の専門家に御相談ください。
(司法書士 上松 隆行)
※越谷商工会議所会報「鼓動」 令和3年7月1日から転載